Magnetic Materials and Measurements Laboratory, at University of Tsukuba


磁気機能工学研究室へようこそ(更新中)

喜多・柳原研究室では磁気特性を中心として、電子材料の基礎となる物性研究を行っています。特に最近はナノ領域の構造を持つ物質について研究を進めています。さらに社会的な要請の高い「省エネルギー」や希少元素を含まず、簡単に手に入る元素で高い機能を持つ「ユビキタス材料」の発見と開発に取り組んでいます。 (2008/12/10)
 

ナノテクノロジー

近年、電子材料に限らず広い範囲でナノメーターサイズ(1nm=10-9m)の構造を持つ材料が注目されています。半導体は言うに及ばず磁性体や誘電体、超伝導体に於いて様々なナノ構造が作られ、その物性が利用されようとしています。特に磁性材料の分野では電子の伝導を磁化の方向で制御する性質が発見され、発見後10年を経ずに、実用化されるという驚異的な新技術となっています。これが、2007年度ノーベル物理学賞の対象となったGMR(巨大磁気抵抗)です。

ナノ構造がもてはやされるのには2つの大きな理由があります。

第一は
高密度に集積されたデバイスの大きさが、ナノ領域にさしかかっている事です。量産されるICの加工単位が、100nmを切ろうとしていることから、それに付随するものすべてを小型化、ナノ化する必要があるわけです。

第二は
ナノ構造には薄膜・人工格子のような2次元構造、細線・チューブ等の1次元構造、独立超微粒子やクラスタ−に代表される0次元構造、また超微粒子やクラスタ−の集合体の3次元構造に分類されます。それぞれ特異な物性が発見され、基本的な機構やその応用が研究されています。特に強磁性体は古典的な意味で、ナノメーターのサイズ領域で大きく物性が変化するため、材料の基本特性を制御する目的でこのサイズ領域の研究が盛んでした。

当研究室ではこのような古典的な意味でのサイズ効果に加え、近年注目を浴びている伝導現象との相互作用を中心に研究しています。

ユビキタス材料

近年、磁性材料に限らず機能の高い材料には様々な元素が利用されています。触媒には白金系の貴金属、高性能永久磁石には希土類金属が欠かせない物です。これらの元素は元々、地球上での存在比が少なく投機の対象ともなって安定な供給が困難になっています。これからの技術開発では、これらの元素が関わる特性を、どこにでもある元素によって代替する事が重要となります。

我々の研究室では、磁性材料や磁気製品の中で使われていて白金系貴金属が必要な強い層間相互作用や垂直磁気異方性という機能を「どこにでも有る元素で構成される物質」で代替する研究を行っています。どこにでもある元素で構成される物質とは、酸化物と窒化物を指します。例としてハードディスクの記録層のなかで、Co/Ru/Coを基本とする構造においてCo強磁性層を反平行に結合する機能を用いていますが、これらをスピネル系Fe酸化物と金属Feで置き換えます。ここでは最近研究室で独自に見いだした酸化物強磁性体とFeの間に働く強い反平行相互作用を用います。磁性元素としてFeが使えることも、さらに省資源の効果を高めます。

研究室で行っている研究

当研究室では以下のような研究テーマを行っています。クリックすると詳しい説明に飛びます。(順次更新します2008/10)

酸化物磁性材料(ナノ構造酸化物強磁性体デバイス)

ナノ微粒子技術応用 

過去に行っていた研究テーマ


どんな装置で研究しているのでしょう

大別して、試料を作ることと物性を計測するための装置があります。一部の写真がトップ頁の項目にあります。

試料作製   超高真空蒸着装置
         電気炉
         多目的ガス・デポジション装置
         プラズマCVD装置

試料の加工評価  超高真空熱処理装置
            スパッタ装置
            名もない普通の蒸着装置
            2軸X線回折装置

磁気測定装置 VSM:振動試料磁束計
          磁気天秤
          トルク計
          メスバウア−分光器(加速器センター)

伝導現象    温度可変伝導現象測定装置
          電界電子放出特性測定装置

ここで個々のテーマを説明する前に、

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研究室での研究に必要なバックグラウンド

角運動量が基本です。

磁性と言えば角運動量ですね。この角運動量は量子力学的には連続した値を持てず、「とびとびの値」しか許されません。このとびとびの軌道角運動量やスピン角運動量が磁性を担うものなのです。

量子力学は得意でない、理解しにくいと敬遠する方も多いようですが、意外と楽しいものです。まず様々な物理量が整数に従うのですから、他の物理より単純な考え方ができる事に違いないと思うことです。いくつかの微分方程式を認めれば波動関数も三角関数の組み合わせで書けます。とりあえず丸飲みに量子力学を飲み込んで、時々取り出しては消化する反芻学習が可能です。また奥が深いので生涯学習の対象にもなるでしょう。まるで夏目漱石学習版のようですね。(少し冗談が入っています)

磁性材料の見地から古典的な見方をすれば、それほど量子力学の存在を気にせずとも研究は進められます。

それでも、これからは量子の時代です。ナノ構造の下で発見された巨大磁気抵抗(GMR)は、「単に小さいだけ(これはこれで大変ですが)」のナノテクノロジーではありません。電子の平均自由行程と散乱に伴う磁化方向の影響というナノサイズでしか実現し得ない物理現象なのです。さらにトンネル磁気抵抗(TMR)は、量子効果を充分に利用するデバイスに発展しています。すなわちこれらの新しい磁気伝導現象は、半導体で培われたナノ加工技術をバネに、今まさに大きくジャンプしようとしています。

ところで角運動量に話を戻すと、最近軌道角運動量を直接観測するのがはやってきました。元素固有の吸収端付近の軟X線を用いることにより、元素ごとの磁気特性を得ることができます。高エネルギー研などに測定装置があり、一家に一台とは行きませんが、今後有望な測定手段です。

DIYと創造的工作の部

当研究室のモットーと特徴は「何でも自分で作ってみる」です。物理屋にブラックボックスはありません。多少のものなら中を開けてみることを推奨しています(ただし高価なものは相談の上)。試料作製、計測用器具、低温計測、計測用電子回路などものつくりの得意な方はもちろん、興味のある方なら、楽しめることな間違いありません。

使用可能な器機:小型卓上旋盤、ボールフライス盤、電動工具多数、電子回路作製  などなど

ちょっとした工作は研究室内で簡単にできます。さらに高度なものは工作センターに製作依頼や相談することができ、製図等も自然に身に付きます。計測装置の設計や製作はかなり高度で複合的な知識が必要です。これを目指す学生は優遇します。

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卒業生の進路

学群教育(学部学生)の段階では、研究のおもしろさはなかなか身近に感じることはできません。このため科学や技術に関わってこれからの人生を過ごそうと考える学生には、大学院進学を勧めます。また教官もなるべく共通の喜びを味わいたいので、その意味からも進学を勧めています。大学院終了後は、多くは企業に就職しています。職種は電気、化学、システムなど多岐に渡っています。最近10年間程の卒業生の就職先は以下のようになっています。

卒業生の就職先(2008年10月現在)

四年卒業:アルプス電気、NTTデ−タ−通信、コスモス電機、千葉県警、上総新聞、ソフト会社

修士修了:松下電工、日経BP、TDK、東洋情報システム、富士電機、凸版印刷、東洋情報システム、東芝、大日本印刷、松下電器、アルバック、富士電機、東芝、日立、キャノン、スズキ自動車、四国計測、富士通研究所、日本シード研究所、高校教員、ニコン、他

博士修了:本田技研、筑波大、日立マクセル、防衛大、アルバック、ニコン

当研究室では物理を基礎において様々な具体例を扱うことで、研究の進め方を学ぶ事を教育目的とします。実社会で遭遇する様々な問題を解決する能力は、その直接的な知識だけでは充分ではなく未知の問題にも対処できる柔軟な思考を身につけることが必要です。目先のトピックスにとらわれることなく、10年20年先にも役に立つ知識を修得してください。

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人工格子・多層膜の研究 Multi-layer project

電子ビーム蒸着源を有する超高真空蒸着装置を用い、良質の単結晶人工格子を作製しています。最近は酸素源・オゾン源を加えて酸化物の薄膜育成にシフトしています。特にスピネル型酸化物の単結晶育成に成功し、スピンエレクトロニクスへの展開を図っています。
微動シャッターを用いることにより、層厚に傾斜を付けたウエッジ膜が作製可能です。
ウエッジを繰り返すことで、ウエッジ多層膜を作ることも可能です。

(a)強い層間結合を持つ酸化物磁性体/金属強磁性体の研究

Co/Ru/Co多層膜では最大5erg/cm2という強い反強磁性相互作用が発見され、磁気記録の分野では欠かせないもの担っています。我々の研究室では、2005年にスピネルFe酸化物を含む多層膜で2erg/cm2という大きさの反強磁性相互作用を2種類の系で見いだしました。

  1. γ-Fe2O3/MgO/Feによるトンネル型反強磁性相互作用
  2. Fe3O4/Feにおける直接型反強磁性相互作用

いずれもきれいな単結晶薄膜であることが必要で、相互作用の最大値は同じですが、γFe2O3/ではMgOが7Åの時に最大となり酸化物を介したトンネル電子が相互作用を受け持っています。それに比べてFe3O4/FeではMgOを挿入すると単調に強度が落ちるため、直接相互作用であることが判ります。いずれも今まで報告されたことのない新しい相互作用であり、物理的な機構の解明が待たれます。

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ガス・デポジション法によるナノ結晶材料の作製と物性の研究

Nanocrystalline materials produced with Gas-Deposition Method(GDM)

金属超微粒子の作製方法としてガス中蒸発法が長年に渡り研究されてきました。その応用技術として超微粒子を再びバルク状態に集合化させる「ガスデポジション法」が開発されました。この研究では、このガス・デポジション法を用いてナノメーターの結晶サイズを持つ超微粒子の集合体「ナノ結晶」を作り、新しい物性を探査しています。

作製方法としては、酸化の心配の少ない貴金属から研究は始まりましたが、現在は3d遷移金属に中心を移しています。

まず磁気特性として、ランダム磁気異方性効果が際だった特性として考えられます。この考え方はナノサイズの粒径を持つ材料の軟磁気特性を説明する物として広く一般的に認められています。しかし理論的には単純なモデルを仮定していて、検証には単一元素でのモデル物質を作る必要があります。ガスデポジションで作ったナノ結晶は、このモデル物質として最適であり、粒子径と異方性の平均化についての関係を調べています。この研究では、物質工学系の水林・谷本研究室と仲良く共同研究体制を取っています。

MicroMagnetic Simulation of Random Anisotropy Model for Nanocrystallne ferromagnets

RAMは軟磁性を解釈する考え方として定着しています。しかし実際どのようにRAMによって磁化が分布しているかは知るすべはありません。モデルでは磁化が一様となる距離が重要のファクターとなりますが、保磁力とは異なり、実験で一義に決まる物理量ではありません。実験的に求められる情報としては、中性子回折から磁化の相関係数が考えられます。この相関関数は実際の磁化分布が求まれば計算することができます。そこで

  1. 実験から保磁力と交換相互作用の及ぶ距離を求める
  2. シミュレーションにより保磁力に相当する磁化の分布を求める 
  3. 分布の相関距離を求める
  4. 中性子散乱から相関距離を求める
  5. 相関距離と交換相互作用距離(Exchange Length)が比較可能

これにより交換相互作用距離が、どのような意味を持つかが判明する事になります。

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酸化物ナノ粒子の医療用途の研究

癌細胞が正常細胞に比べて高熱に弱いことは古くから知られていて、それを利用した様々な治療方法が提唱されていきました。磁性体の高周波磁場による遠隔的な加熱と、ナノ粒子に癌細胞に特異的に付着する機能を与えることにより、健常細胞に影響を小さく癌細胞だけを焼灼する事が期待できます。現在は超常磁性微粒子を用いて100kHzから400kHz以上の高周波磁場を印加して緩和損失を利用する方法が主流ですが、発熱特性が微粒子のサイズ分布に大変敏感で試料調整に難がありました。そこで強磁性のヒステリシス損失はサイズ分布の影響を余り受けない事に着目し、20nm近傍の強磁性ナノ粒子を用いてヒステリシス損失を積極的に利用する加熱方法の開発に挑んでいます。10kHzから100kHzの周波数を用い、強磁場を印加することにより発熱量の増大を模索しています。学内臨床医学系の小田先生(大河内・小田グループ)をはじめ、多くの研究者との共同研究です。

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CVD法によるカーボンナノチューブの作製

なぜ、磁性の研究室でナノチューブを?と疑問が湧くでしょう。実はナノチューブの生みの親、飯島博士も昔超微粒子の研究家だったのです。当研究室では超微粒子の発展的技術として、上記のガスデポを研究していますが、さらに関連技術としてナノチューブを作製して、電子材料への応用を検討しています。。


(参考)過去の研究

(a) 強い層間結合を持つ金属強磁性人工格子の研究

80年代に発見された磁性人工格子のトピックスは、巨大磁気抵抗と振動する層間結合です。これらは両者を共有する物質で発見されたため、強い関連性が考えられましたが、基本的にはあまり強い関係はない事が判っています。GMRについては、すでにヘッド材料として実用化されていて、90年台後半のハードディスクの飛躍的な容量拡大に大きく貢献しました。他方で、層間結合は非磁性金属の持つ電子状態を大きく反映する機構が提唱され、単純なフェルミ面を持つ貴金属系では周期と位相がうまく説明されています。

一方、Co/Ru系に代表される強い相互作用を持つ系では、定性的にもその解釈は貴金属系ほどはうまくいっていません。また実験的にもhcp相あるいはfcc(111)面の成長に関しては、磁気異方性との競合がその結合定数の決定を不明確にさせています。そこで当研究室では、同じく強い相互作用を持つCo/Ir,Rh系において単結晶試料を成長させ、結合の様子を調べています。この系の特徴は非磁性金属がfcc構造を持つため、様々な方向の成長が可能となると予想できるからです。
現在までに、Co/Irについて(100)面の試料で60Å以上にわたる層間結合と、複雑な周期を見いだした。(111)面など他方向の結晶成長を現在進行中で、Irのバンド構造や量子井戸準位との関係を明らかにしたいと考えています。

同時にこれらの系でCo層厚を薄くした場合に、非常に大きな一軸異方性が生じることが判りました。今後はCo超薄多層膜における磁気異方性の起源も研究対象とします。

(b) 磁性人工格子における量子井戸準位と伝導現象

前項では結合の機構に量子井戸準位が考えられることに触れましたが、このような極微構造による電子状態の離散化は、当然伝導現象を通じてその姿を現すはずです。常磁性金属膜厚に対する状態密度の周期的変化は、GMRだけでなく熱起電力やホール効果にも影響を与えると考えられています。そこでフェルミ面近傍の状態密度に非常に敏感な物理定数である熱電能を通じて、量子井戸準位の影響をしらべています。ウエッジ多層膜を試料として用いることで、非磁性層厚以外の実験条件を変えずに物性の比較が可能となり、より精度の高い議論に挑みます。

当初、強い相互作用が大きな影響を与えると考え、Co/Ir系を対象に選びましたが、熱起電力の絶対値が小さく、議論が難しくなりました。そこで現在は量子井戸準位の存在がすでに他の実験で確認されている、Fe/Au系において多層膜を作製しています。得られた試料のGMRは低温で30%を越えて、今までのどの報告の値よりも大きな値となっています。熱起電力の測定も比較的容易であり、今後の展開を期待しています。


グラニュラー物質 Granular materials

(a) 金属ー非磁性絶縁体グラニュラー物質の電気伝導、TMR

FeやCoとMgF2を交互に蒸着する時、強磁性金属層が薄くなると、島状構造となりグラニュラー構造を作ることができます。このような多層蒸着法により作った薄膜の伝導現象に注目して実験を行い、室温で11%の大きなTMRを観測しました。引き続き、この系で蒸着シーケンスを変化させ、帯電効果を際だたせる様な試料を作製し実験を行っています。この系では、すでに界面磁性に起因すると考えられる磁化と内部磁場の増大現象、およびグラニュラー性に起因する光学透過率の増大を見いだしています。

(b) 金属グラニュラー薄膜の伝導

同時蒸着や複合タ−ゲットを用いたスパッタ法をもちいて2種の金属を混合し、その熱処理によってグラニュラー材料を作ります。Fe-Ag系ではFeの結晶状態による磁性と構造の変化を伝導現象を通じて観測しています。


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