「産業用MRIの開発」


要旨


 医学診断に用いられる臨床用MRIは広く普及しており、また研究目的にもMRIはかなり使用されている。これに対し、産業用に使用されているMRI(産業用MRI)は、ほとんど報告されていない。これは、MRIに適した応用例が少ないことと、検査コストが回収できるようなコンパクトMRIを構築する手法が未開拓であったためである。
 ところが、MRIによる鮭の雌雄判別は、ほかの手法による判別が困難であることと、その検査コストが十分回収できると予想されることから、MRIによるシステム構築が期待されている。そこで本研究では、本研究グループで開発されたコンパクトなMRIコンソールと、永久磁石磁気回路を組み合わせることにより、鮭雌雄判別用MRIシステムの開発を行い、システムの評価を行った。
 システム開発においては、1秒以下の撮像時間を実現する必要があるため、勾配磁場コイルの大型化にともなう勾配磁場電源の強化を行った。鮭を撮像範囲に移動させるために、スムーズかつ迅速な作業が必要とされるため、搬送系を考慮したRFシールド、RFプローブ、勾配磁場コイルの開発を行った。さらにホール素子を用いて勾配磁場の計測を行い、画像の取得に重要である勾配磁場コイルの勾配磁場効率、線形性、スイッチング時間を評価した。
 MRIによる雌雄判別の可能性を確認する実験を行うために、まず撮像時間、約4秒のシーケンスを開発し、雌雄の鮭の撮像を行った。その結果、MRI画像を用いた雌雄判別が可能であることを示した。
 次に、実用的な検査速度に対応させた、撮像時間1秒以下を実現する高速撮像シーケンスを開発し、雌雄のスライス画像を取得した。しかし、雌雄判別を行うためには、Tによるコントラストの確保が必要であり、このためには少なくとも0.8秒の撮像時間を要した。よって実用的なシステムの開発には、さらに高速なT強調画像の撮像シーケンスの開発と、それに合わせたシステムの改善が必要であると結論した。