分子の自己組織化した構造がおりなす新機能!






有機FET、有機FET、有機太陽電池、など、様々な有機エレクトロニクス材料の集合体は、弱く相互作用をする系であり、室温では、熱エネルギーと、電極などの基板表面のポテンシャルとにより、多様な自己組織化構造を形成します。有機エレクトロニクス材料としての物性は、この自己組織化構造により決定されるといっても過言ではありません。 しかし室温環境でのこれらの材料の分子レベルの自己組織化構造は十分に知られていないことが多いのです。揺らぎの多い室温下での有機半導体固体は、計測自体が難しいためです。


個々の分子の電子状態は、既存の分光法や量子化学計算、また極低温環境下での単一分子化学の発展に伴い、詳細に知られてきました。我々の狙いは、これらの分子を室温下に置いた時の集合体としての形態とそのマクロ物性をとらえて、利用することです。ここでは、熱拡散があり、ファンデルワールス相互作用やその他の比較的弱い分子間相互作用があり、分子の振動があり、分子基板相互作用があり、、、これらのバランスで集合系のかたちと性質がきまります。これだけパラメータが多いと、なかなか計算では結果が予言できません。しかし、このような状況において、我々の日常世界のデバイスや生き物が動いているわけです。


本研究室ではこのような室温環境下の分子の薄膜の構造を詳細に観察して、それに基づいて以下のようなテーマでさまざまな物性を計測しています。






金属内包フラーレンの超原子分子軌道(SAMO)の研究
 〜「大きな原子」の状態を利用する、「SAMO工学」〜  



サッカーボール状分子であるフラーレンは内部の空間に何かを入れることができます。そうすると、外見はサッカーボールですが、性質が全く違うサッカーボールができます。これを内包フラーレンとよんでいて、なかなか面白い分子です。

フラーレンでは、最近、超原子分子軌道(SAMO)という面白い軌道が注目されてきました。SAMOはフラーレンを「大きな原子」と見立てた時の、フラーレンの周りにできる水素原子軌道のようなもので、とても対称性良く広がった軌道です。内包フラーレンですと、SAMOが変わるので、これは「また別の大きな原子」ということになります。そうすると、この「大きな原子たち」を利用した様々なことが思いついてきます。このような軌道はまだ研究が始まったばかりですが、これをうまく利用できれば、有機材料の電子輸送特性の概念を大きく変えることができます。

SAMOを応用してゆくには、孤立分子のSAMOではなく、「薄膜のSAMO」というものを理解し、制御する工学の開拓が必要です。幸い、内包フラーレンは多様に合成できますので、「大きな原子たちの薄膜」の状態制御のためのパラメータはたくさんあります!

このような、金属内包フラーレンの薄膜を利用して薄膜のSAMOの理解と制御を目指す「SAMO工学」の成果は、新原理の有機太陽電池や有機FETを拓くと期待できます。


共同研究:東北大学 上野裕先生、イデアインターナショナル 笠間社長、大阪公立大 渋田先生



Momentum Microscope(光電子運動量顕微鏡)による分子軌道可視化
〜有機半導体のキャリア移動の原理を「見る」!〜




最近、無機材料並みのキャリア移動度を示す高移動度有機半導体が登場しています。しかし、実はそもそも有機半導体薄膜中の伝導機構に関してはいまだにわからないことが多く、さらなる高移動度化をしていくためにはこのもそもの伝導メカニズムの解明は必須です。

有機半導体の薄膜の伝導機構を調べるのには、薄膜中で分子の軌道がどのような「かたち」になっているか、が鍵になります。しかし、分子軌道の形を計測する手段はSTM以外なかなかありません。STMも、局所計測すぎて、薄膜全体の平均情報の理解は困難です。

そこに近年、光電子から始状態の「かたち」の情報を引き出す「光電子トモグラフィー」という手法と、この高度計測を可能にするMomentum Microscope(光電子運動量顕微鏡)という装置の開発が世界中で発展しつつあります。日本にも、2020年に分子科学研究所の放射光施設(UVSOR)のBL6Uにこれが導入され、絶賛稼働が開始されました!

光電子トモグラフィーでは、薄膜の分子軌道の形の平均情報が得られますので、キャリア伝導にクリティカルな情報を引き出すことができます。しかしまだ新しい手法であるので、これまでは比較的単純なモデル分子にしか適用されてきませんでした。我々は、より実用的な分子膜の光電子トモグラフィーに挑戦し、これらの伝導機構の解明を目指しています。

共同研究:分子科学研究所 松井先生、解良先生

次世代有機EL材料の単相薄膜の応用開拓
〜持続可能な発光デバイスを見出す!〜


有機エレクトロニクスの中でも、有機ELデバイスは今最も身近に出回っています。現在、次世代型の分子として、熱活性型遅延蛍光(TADF)と呼ばれる発光を示す分子が研究されています。私たちは、この新しいTADF分子の自己組織化による薄膜(単相膜)の作成して研究をしています。

そもそも、既存の有機ELデバイスでは単相膜は使われていません。これは励起子がエネルギ移動により失活してしまうからとされてきました。一方で、TADF分子では単結晶がよく光ったりと、まだまだわからないことだらけです。

もし、自己組織化単相膜が利用できれば、有機ELのデバイス構造が単純になるため製造エネルギーが大幅に削減できることや、発光の指向性がえられるためデバイス効率が向上し省エネルギー化が可能となる、などの魅力があります。また、よく規定された単相膜では、その電子的性質を詳しく調べることができ、TADF自体の基礎研究にも使うことができます。

現在、面白い集合構造を示す4CzIPNの単相膜を独自に作製して、その集合構造と光・電子物性の関係を調べています。


共同研究:産総研 細貝先生、九州大学 中野谷先生

実空間、リアルタイムでの分子イメージング
〜電解放射顕微鏡の応用〜




無機テクノロジーの構成要素は"球形"の原子であるのに対して、分子テクノロジーの構成元素の分子はその「かたち」がかなり重要な特徴です。特に分子エレクトロにクスにおいては、分子の電子軌道のかたちを捉えることが重要です。しかし現状では、その手法は非常に限られています。かたちにこだわる本研究室ではその中でもSTMや光電子トモグラフィーなどを利用していますが、いずれも「止まった」状態しか見れません。そこでもう一つ、新たな手法を開発しています。

電解放射顕微鏡(FEM)は、針の先端に負の高電圧を印加したときに電子が放射する「電解放出」という現象を使った顕微鏡です。電解晶出された電子をスクリーンに投影することで、針の先端の微細構造が拡大されます(普段は、日立との共同研究で電子顕微鏡の電子源の研究に使います)。この時、針の先に分子を置いたらどうなるだろうか、と思いつきました。針から飛び出した電子は分子の非占有軌道を介して、とび出してくると考えられます。そうすると、スクリーンに分子由来の何か出るのではないか。そうしたら、投影型であるため、分子の「動き」も直接見える可能性があります!

これを実際にやってみると、面白いパターンが得られます。パターンが変化している様子も見られます。このパターンは非常に対称性が良いため、分子のSAMOのような非占有軌道を反映していると考えていますが、そのメカニズムはいまだに全くわかっていません。これが解明できれば、稀有で有用な分子軌道のリアルタイムイメージングが開発できます。


共同研究:絶賛募集中

時間分解光電子顕微鏡で有機材料の励起状態の電子の動きを見る




時間分解光電子顕微鏡(TR-PEEM)は、超短パルスレーザーを光源とした光電子顕微鏡で、励起状態の電子のダイナミクスを捉えることができる装置です。我々は、KEKの福本さんと協力し、これを有機材料に適用することに挑戦しています。

福本さんのTR-PEEMでは、低エネルギー、かつエネルギ可変の光源を用いることで、通常邪魔になるバックグラウンド電子を極限まで低減することができたため、有機材料のような壊れやすかったり、帯電してしまったりしやすい対象のPEEM計測が可能となりました!これは地味にすごいことだと思います。

これを使って、励起子が重要になる、有機太陽電池や有機ELの励起子ダイナミクスの研究や、有機FETに注入された電子の可視化などのテーマををすすめています。


共同研究:KEK福本先生、NIMS 若山先生、早川先生

ドロップレット
〜生体分子の自己組織化〜


上記は物理化学よりの分子の自己組織化に関するものですが、生体の高度な自己組織化にたどりつくためには、より大きく複雑な生体分子の自己組織化を見てゆく必要があります。このため、タンパク質のゆるい集合構造であるドロップレット(液滴)に注目しています。
  

液滴は生体でかなり重要な機能を果たしていることが近年次々と明らかになっていますが、物理化学的な研究が非常に不足しており、その性質や制御法がわかっていません。我々は、フラーレンを中心としたよく規定された分子とよく規定されたタンパク分子の相互作用を調べることで、液滴の理解と制御を目指しています。


共同研究:白木研究室 延山さん

真性粘菌の自己組織化
 〜なぞ〜


はてしない生命の自己組織化現象を研究するのに、単純な系として(多核)単細胞生物である真性粘菌は良いのではないかとおもわれます。今のところただみているだけです。しかし、数々の創発現象をいとも簡単に見せてくれます。わけが分かりません。

現在冬眠中