筑波大学 理工学情報生命学術院 数理物質科学研究群
電子・物理工学専攻 藤田・伊藤研究室
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カーボンナノチューブの位置制御技術・固相成長とその場観測

・ナノ立体構造とナノチューブの固相成長その場観察

 電子ビームによる気相成長法(EB-CVD)を用いることで、真にナノサイズのアモルファスカーボンピラーを形成することができます。このような極細のアモルファスカーボンピラー中で実現するナノチューブの固相成長技術開発では、デバイス応用のみならずナノチューブ成長メカニズムの理解において重要な知見が得られると期待されます。

 フェロセンを原料に用いたEBまたはFIB-CVDプロセスでは、鉄含有のアモルファスカーボン構造体が形成され、約600℃の真空加熱によって鉄微粒子が析出します。この鉄微粒子はアモルファスカーボン構造体の中を動き回り、構造体全体をグラファイト化します。ここで、フェロセンベースの構造体上にフェナントレンを原料としたEB-CVDによって極細のカーボンピラーを形成しておきます(図1a)。すると、たまたま細いピラーの中に入り込んだ鉄微粒子は、ピラーの中をうねるように動きながら移動し同時のその軌跡にナノチューブを形成します(図1b-e)。

  本研究ではin-situのTEM画像として、あたかも液体のように形状を変える鉄微粒子の形態を捉える事に成功しました。このとき微粒子内部には時折りモワレも観測できます。つまり鉄微粒子は液状に変形するものの、本質的に結晶性を持ち(図2a)、微粒子頭部でアモルファスカーボンを浸食し、尾部からナノチューブをはき出しながら移動を繰り返すような固相ナノチューブ成長が起こっている(図2b、c)と考えられます。このようなCNT固相成長その場観察技術の特徴は、高度な3次元構造体成長制御技術が基本にあって、あらかじめTEM視野内にナノチューブ固相成長の起こる観測位置を予測・指定しておくことが可能な点にあります。つまり自由な位置に3次元構造体を形成する技術が在るからこそ、ナノチューブ成長メカニズムの本質に迫る研究が可能となります。

図1 鉄微粒子による固相反応 図2 ナノチューブ固相成長のin-situ観測