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筑波大学・大学院数理物質科学研究科・電子物理専攻藤田研究室・





   研究紹介

  1. EB/FIB技術

  2. カーボンナノチューブ

  3. グラフェン

  4. 酸化亜鉛

  5. 超尖鋭プローブ

  6. イオン液体

  7. マイクロ流体デバイス



  8. 研究推進について
電子ビーム励起反応によるナノ立体構造の成長様式と物性

 集束イオンビームを用いた表面励起反応(FIB-CVD)を用いることで、 サブミクロンサイズの任意形状の3次元構造体を作製可能であること、またフェナントレンを原料とした場合の分解生成物はダイヤモンド状カーボンであり、作製条件によっては600GPaに達する高いヤング率を持つ事が判っています。 しかしながらFIB-CVDでは合成される構造体のサイズはサブミクロンの分解能にとどまります。FIB-CVDに用いられる30keVのGaイオンの侵入長は短く、この非弾性散乱過程で放出される2次電子の飛程程度の領域でCVD反応が進行するために、合成される構造体の最小寸法は約80nm程度となるからです。一方で、電子ビームの侵入長はイオンに比べて非常に長く、30keVの電子で5ミクロンにも達します。逆にナノ構造体に対しては、1次電子の大部分はあまり散乱されずに構造体を通りぬけます。つまり、細く絞られた電子の通過領域から発生した2次電子によってCVD反応が進行するため、電子線のエネルギーと原料ガスの導入量を適度に調整することで、真にナノメートルサイズの構造体合成を制御することが可能となります。

・EB-CVDの成長様式

原料ガスにフェナントレンを用い、電子ビームを1点照射すればアモルファスカーボンの垂直ピラーが形成されます。また、電子ビームを横方向に走査すると傾斜したピラーが成長します。実験では走査電子顕微鏡を用い、加速電圧15keV、ビーム電流量50pAでピラーを成長させています。電子ビームの走査速度を変えると図1に示すような一連の傾斜ピラーを得ることができます。電子ビーム走査速度はそれぞれ、@ 2.5nm/s、A 3nm/s、B 4nm/s、C 5nm/s、D 6nm/s、E 7nm/s、F 8nm/s、G 9nm/s、H 10nm/s、I 11nnm/s、J 12nm/s、K 13nm/sです。ピラーの傾きをピラーの根元部分と基板とのなす角と定義し、走査速度に対するピラーの傾斜角度をプロットしたものが図2です。図2の曲線はピラーの垂直方向成長速度成分が一定であるとした時の理論傾斜で、実験値と良い一致を示していることから、基板近傍での垂直方向の成長速度がほぼ一定であると推定されます。しかし図3. 3に示されるF以降のピラーは、ある高さを越えると垂直方向の成長レートが減少し、水平方向に曲がり始めます。その高さは電子ビーム走査速度にも依存しますが、基板から約1um程度です。つまり、基板近傍では比較的一定のガス分圧が維持され、この範囲では立体構造体を制御性良く合成できます。基板から垂直1umを超える範囲では、ガス分圧が下がり垂直方向の成長速度が減少していると考えられます。

図1 傾斜ピラーの成長 図2 走査速度とピラーの傾斜

図1 傾斜ピラーの成長         図2 ビーム走査速度と傾斜の関係

 

・透過電子によるCVD成長

 これら一連の実験はシリコン基板上でのEB−CVDで得られた結果ですが、シリコン基板の劈開面近傍で大変興味深いピラーの成長モードを見出しました。図3に示すように基板の劈開面は基板表面に対してオーバーハングを形成しています。電子ビームの走査の開始地点は基板の端から2um程度内陸側であり、そこから一定速度で基板のエッジに向けてビームを走査すると、基板下部(オーバーハングの下部)からも構造体の成長が観測されました。電子ビームが基板のエッジに近づき図3中のX点に達すると、基板下部にも構造体が成長し始めます。この構造体はピラーではなく、X点から連続した壁となっています。15keVの1次電子のシリコンに対するBethe侵入長は約2ummで、X点での深さ220nmよりも大きい。しかし、通過した電子のエネルギー蓄積蓄積がアモルファスカーボン成長に対してある閾値を持つはずであり、この220nm位置でのエネルギー蓄積がEB-CVDが起こる閾値に達したと考えられます。すなわち、間接的に1次電子ビームのエネルギー蓄積プロファイルを間接的にEB-CVDを通して視覚化された現象であると考えられます。



図3 劈開面近傍での成長 (a)SEM画像と (b)成長モデルのイラスト

 


・ピラーのヤング率

 FIB-CVD法で合成したカーボンピラーに対して試料フォルダをピエゾ素子加振することにより、図4に示すようにピラーの共振がSEM像として観測できます。この共振特性からピラーのヤング率が計算でき、約100GPaの硬さを持つことがわかります。FIB-CVDピラーのヤング率は成長速度に強く依存し、低速成長のものほど高いヤング率を示し最大で600GPaに達します。一方EB-CVD法によるピラーのヤング率は良く知られていません。今回はEV-CVD法で作製したカーボンピラ−のヤング率をAFM用カンチレバーとの相互たわみにより計測しました(図5)。EB-CVDピラーへの負荷を与えるためにAFM用シリコンカンチレバーを用いますが、この共振周波数f0とその形状(台形断面の寸法、長さ)および、シリコン結晶(100)方向のヤング率(140GPa)からカンチレバーのバネ定数が0.184N/mと決定できる決定できます。このバネ定数をもとに、ピラーとの相互たわみ量をSEM像から求めることで、ピラーのバネ定数が求まります(図5)。その結果、EB-CVDによるアモルファスカーボンピラ−は約30GPa程度の硬さを持つ(図6)事が判りました。また、電子ビームによるピラ−の場合は成長時の電子加速電圧によってヤング率が変化し、低加速電子によるピラ−ほど高いヤング率をは持つことがわかりました。


図4 ピラーの共振  図5 ピラーのたわみ測定

 

図6 ピラーのヤング率



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