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筑波大学・大学院数理物質科学研究科・電子物理専攻藤田研究室・




   研究紹介

  1. EB/FIB技術

  2. カーボンナノチューブ

  3. グラフェン

  4. 酸化亜鉛

  5. 超尖鋭プローブ

  6. イオン液体

  7. マイクロ流体デバイス



  8. 研究推進について
鉄微粒子の移動計測制御

 鉄微粒子による固相触媒反応のメカニズム解析および鉄微粒子の移動方向制御を目的としてSTEMを用いた鉄微粒子移動の解析を行っています。アモルファスカーボンピラー中を動く鉄微粒子の動きは、温度一定の熱平衡状態では、極めてゆっくりとしたまたランダム方向への動きが観測されます。しかし、ピラーへの通電量を変化させた時に、瞬間的に熱平衡状態が崩れたときに極めて大きな鉄微粒子の移動が観測されました。本研究では、これらの加熱条件と鉄微粒子の移動をビデオ解析から定量かし、鉄微粒子移動のメカニズムおよび移動のドライビングフォースについて調べました。


・STEMによるその場観察装置
 フェロセンおよびフェナントレンを用いて作成したEB-CVDピラーを接合し試料としました。ナノマニピュレータを用いてSi基盤およびマニピュレータ先端間に通電加熱を行い、試料中の鉄微粒子の動きをSTEM像としてリアルタイムに観測します(図1)。ジュール熱によってフェロセンピラー内で析出・凝集した鉄微粒子はブラウン運動のようにゆらぎながらピラー内を方拡散していきます。実字かのSEM-TV画像をビデオデータとしてコンピュータに取り込み、1フレーム毎(1/30秒毎)の画像データから鉄微粒子のピクセル座標を読み取ることで、鉄微粒子の速度を解析しました。

図1 実験系略図

図1 鉄微粒子移動のIn-situモニターリング実験装置の概略図



・定常状態での鉄の動き
 室温におけるフェロセンピラーは鉄がピラー内に均一に分布しているが、3〜5μA程度通電加熱で図2のように直径数ナノメートルの鉄微粒子が形成されます。熱平衡状態において析出した鉄微粒子は、その場で揺らぐようなブラウン運動に似た動きをします。さらに印加電流を増やすと、鉄微粒子のランダムな方向への移動が観測されるようになります。 このような静的加熱における鉄微粒子の典型的な挙動(速度)解析を行った結果を図**に示します。グラフ中の鉄微粒子の速度は10秒ごとの鉄微粒子の位置の変位から求め、Si基板側を正、プローブ側を負に取っています。グラフより、鉄微粒子は、約数nm/sec程度でランダムに動いていることがわかります。電流の向きを変えた実験においても、鉄微粒子の挙動には大きな違いが見られませんでした。


図2 静的加熱時の鉄微粒子移動の解析結果

図2 定常的加熱時の鉄微粒子移動の解析結果

・非定常状態での鉄微粒子の動き
 一方で静的加熱の途中で、短時間に印加電流を増加させた場合は、鉄微粒子の動きに大きな変化が見られました。通電電流を7.15μAでの熱平衡状態から、5秒間で8.5μAまで急激に増加させると鉄微粒子の急激な運動が観測されました。しかし、この運動はすぐに収まり、それまでの平均移動速度レベルに収束してしまいます。図3は電流量を5秒間で変化させた時の、STEM画像のフレームショットです。最初直径約20nm程度であった鉄微粒子は電流増加に伴い急激に動き出し、さらに移動の途中で周りの粒子を取り込みながら直径約40nm程度までに成長していることがわかります。この鉄微粒子は電流の増加開始から1秒程度遅れて急激に動きだし、瞬間最高速度約500ナノメートル程度に達しました。その間、正・負の方向にランダムに動きますが、3秒程度で動きは収束しました。その後さらに印加電流を増やしても鉄微粒子は動きませんでした。


図3 静的加熱時の鉄微粒子移動の解析結果

図3 非定常的加熱時の鉄微粒子移動の解析結果


・鉄微粒子移動のドライビングフォース
 これらの鉄微粒子はすべて基板側に移動し、また電流の向きには依存しません。ここで、ピラー内の熱伝導率の分布が一定、ピラーの両端の温度が一定、さらに基板とプローブ以外からは熱が逃げないと仮定すると、単純な熱拡散方程式からピラー内部の温度分布は図4のように2次曲線的に分布していると表せます。 アモルファスカーボンの熱伝導率を、無定形カーボンの熱伝導率と同じ2.2(W/mK)、タングステンプローブの温度およびSi基板の温度を室温と同じ約300Kとし、さらに静的加熱時の印加電流値8.μA、印加電圧値46.5Vよりピラー内で発生する熱量は395μWであると見積もると、ピラー中央で約600℃と見積もることができます。試料のなかで鉄がドープされている部分は中央から基板寄りの位置にありますが、温度勾配は比較的平坦です。このため、定常的加熱ではランダム方向の動きの遅い運動が観測されたと考えられます。一方で、印加電流を急激に増加すると、ピラー内では熱の平衡状態が崩れ、瞬間的にピラー内の温度は上昇すると予測されます。しかし瞬間的な温度上昇はすぐに次の定常状態に落ち着きます。このとき大部分の鉄微粒子がSi基板の方向、つまり温度勾配の低い方へ動きました。ここで電流の向きを変えても鉄微粒子の動きは変化しませんでしたのでドライビングフォースに対するエレクトロマイグレーションやクーロン力の影響は少ないと考えます。つまり、温度勾配が鉄微粒子移動のドライビングフォースになっているのではないかと考えられます。

図4 ピラー内の温度分布

図4 ピラー内の温度分布





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