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筑波大学・大学院数理物質科学研究科・電子物理専攻藤田研究室・




   研究紹介

  1. EB/FIB技術

  2. カーボンナノチューブ

  3. グラフェン

  4. 酸化亜鉛

  5. 超尖鋭プローブ

  6. イオン液体

  7. マイクロ流体デバイス



  8. 研究推進について
瞬間放電にともなうGaの動きとナノチューブ固相成長

 固体アモルファスカーボン内を動く鉄微粒子によってカーボンナノチューブが合成されます。しかし鉄微粒子を用いなくとも、瞬間放電に伴うGaの触媒作用でナノチューブが固相成長する新しい成長様式を見いだしました。 一般に集束イオンビーム装置ではGaがイオン源として用いられます。よってFIBを用いて作成されたアモルファスカーボンピラーは内部にGaを含有します。このFIB-CVDで合成されたナノピラーに瞬間的に電流を流すと、ジュール加熱によってGaの瞬間的な凝集・移動・反応が誘導され、ピラー内部にグラファイトチューブ構造が形成されます。 図1に実験系の模式図を示します。SEM試料室内に設置されたピエゾ駆動による3軸アクチュエータを操作し、タングステンプローブ先端をFIB-CVDで形成したピラー先端に接触させます。ピラーを成長させた基板はSEM本体のグランドに接地されており、プローブには任意のバイアス電位が印可できるようになっています。

図1 実験系略図

図1 瞬間放電によるナノチューブ形成実験の装置概略図



 この状態で、プローブに蓄電したコンデンサ(0.013μF)を接続すると、瞬間に放電が起こり、アモルファスカーボンピラー(図2a)が内部に周期的配置でGaを含んだ多層ナノチューブ(図2b)に変化します。 図2aの as-grownピラーのでは、ピラー内部にイオン源のガリウムが含まれており、全体に黒く見えます。このas-grownのピラーは典型的におよそ1000Ωcm程度の非常に高い抵抗率を示し、低電圧電を印加してもほとんど電流は流れません。as-grownピラーのI-V特性は図3に示すように、強い非線形性を持ちホッピング伝導的特性を示します。このため、ある一定電圧以上の電位を与えると、突然電流が流れるようになり、その際に瞬間的な固相反応が誘発されます。

図2変化前と変化後のピラー

図2 変化前と変化後のピラー


 as-grownピラーは、この強い非線形特性のため、0V近傍では絶縁体に近く、±20Vあたりに電流値の立ち上がりを持ちます。典型的なピラーのサイズは長さ10μm、直径100nmですから、0V近傍の傾きから求めた抵抗値は、およそ10GΩという非常に大きな値を示し、約800Ωcmの抵抗率と算出できます。一方、変化後のピラーの抵抗率はas-grownのおよそ1000分の1の0.8Ωcmまで減少します。すなわちピラー内部で結晶構造の変化が示唆されます。 放電前後のコンデンサの電圧変化から、この変化に要する電荷は数十ナノクーロン程度であり、数マイクロジュールのエネルギーがこの反応で消費されていること推定されます。単純にこのエネルギーからジュール熱を算出すると温度にして100万度を超える温度になってしまいますが、もちろん基板との接触抵抗、さらにプローブとの接触抵抗が非常に大きいですから、実際に使われているエネルギーは遙かに少ないと予想されます。

図3 ピラーのI-V特性

図3 FIB-CVDピラーのI-V特性



 反応後のピラーのTEM像を図14に示す。ピラーのグラファイト化反応は非常に短時間に終了するため、反応の様子や変化の過程を観察することは非常に困難である。しかし、図4のTEM像には瞬間放電によるグラファイト化反応に特徴的ないくつかの段階が含まれているように見えます。ピラーの先端にはナノプローブの陽極が接触していました。このためプローブの近傍の温度は比較的低く、この領域にはガリウムの微粒子が存在しています。プローブ接触位置から離れるにしたがって、微粒子同士は互いに凝集し、より大きなガリウム粒子を形成しています。大きなガリウム粒子が移動した跡には、ピラーの内側に多層のグラファイト層からなるチューブ状の構造が形成され、写真では強いコントラストとして写っています。一方でピラーの基板側には泡状の構造が確認できますが、高分解能透過電子顕微鏡(High Resolution-TEM)像より、グラファイトのかけらであると判明しています。さらに、ピラーの外層はアモルファスカーボンで覆われたままです。また、ピラー中央に残っているガリウム粒子の陰極側には、ガリウム粒子を覆うようにグラファイトの隔壁が形成されています。


図4 変化後のピラーのTEM像

図4 変化後のピラーのTEM像



 図5は、このGa粒子近傍のHRTEM像です。ガリウム粒子が移動した跡には、ピラー内部に厚さ5nm程の薄いチューブ状構造が形成されている。図15bの回折像はグラファイト[0002]スポットであり層間隔0.34nmに対応する。また、グラファイト層の外側にはアモルファスカーボンで覆われていることから、この固相反応がピラーの内部から進行したものと考えられます。Gaは正に帯電しやすいから、陰極に引かれて運動する。運動が止まったときに隔壁が形成されたのか、隔壁にGa粒子の運動が阻まれて止まったのかは判別できませんが、いずれにしてもピラー内のGaの動きによってアモルファスカーボンがグラファイト化しチューブが形成されたものと考えられます。

図5 Ga粒子近傍のHRTEM像

図5 Ga粒子近傍のHRTEM像






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