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逆ペロブスカイト型窒化物フェリ磁性体(Mn4N)をベースとする超高速磁壁駆動の実証


AIやビックデータ用に大容量で低消費電力のメモリーが必須であり、究極のメモリーとして電流駆動磁壁移動デバイスが盛んに研究されています。このデバイスでは、磁性細線の磁区の磁化方向を情報の0と1に対応させ、磁区の境界である磁壁を電流またはスピン流により、高速に移動して情報の書込み・読み出しを行います。このため、小電力で高速の磁壁移動の達成が求められています。 我々は、フランス・グルノーブルの研究チームと共同で、スピン移行トルクのみを用いた磁壁移動において、 当時世界最速(900m/s)の電流誘起磁壁移動をMn4N (NANO Lett. 19, 8716 (2019))で、 さらに、Niを僅かに添加したMn4Nの角運動量補償点付近の組成では、 室温かつ外部磁場のアシストが無い状況で、世界最速(3,000m/s)の電流誘起磁壁移動を達成しています (NANO Lett. 21, 2580 (2021)) 。今後は、スピン軌道トルクを用いて、 磁壁が動き始める電流密度を下げることが目標です。目下、非磁性元素(Au, In, Snなど)を添加したMn4N膜を形成し、磁気輸送特性やX線磁気円二色性特性から、磁気モーメントの向き、大きさを調べており、 高速磁壁移動の可能性のある物質を探っています。

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逆ペロブスカイト型強磁性窒化物および共鳴トンネル型スピンフィルターの開発


これまで長年に渡り培ってきた薄膜結晶成長技術を生かし、資源が豊富な元素からなる特異な強磁性体をエピタキシャル成長し、電子が持つスピンを利用した電子デバイス、光デバイスを作製しようとしています。スピントロニクスでは、upスピンまたはdownスピンのどちらかを選択的に利用することが、デバイス特性向上につながります。これまでに、Fe4NがFeよりも大きなスピン偏極率をもつことをアンドレーエフ反射法を用いて初めて実証しました(APL 94 (2009) 202502)。また、平坦な薄膜のエピタキシャル成長に成功し(JCG 322 (2011) 63)、さらに、X線磁気円二色性(XMCD)測定(APL 98 (2011) 102507, JAP 117 (2015) 183906) 、スピン分解光電子分光測定(JAP 112 (2012) 013911)から、磁気構造と電子構造を評価しました。異方性磁気抵抗効果(AMR)測定から、電気伝導度のスピン偏極率が理論予想のとおりに負であることがわかり(JJAP 51 (2012) 068001) 、それを利用した電流駆動磁壁移動デバイスへの展開を行っています(JJAP 54 (2015) 028003)。FeをCoで置換したCoxFe4-xNの物性がどうなっているのかという点にも興味がわき、エピタキシャル膜を成長し(JCG 336 (2011) 40, JCG 357 (2012) 53) 、XMCD測定(JAP 115 (2014) 17C712)、メスバウアー測定(JAP 117 (2015) 17B717)、AMR測定(JAP 116 (2014) 053912)を駆使して、磁気物性、電子物性、原子配置のディスオーダーを評価しました。最近は、30年以上の論争の末、一時は決着がついたかに思えたα”-Fe16N2における巨大飽和磁化論争が再燃したため、その真偽を検証すべく、Fe4N薄膜の結晶成長で培われたノウハウを生かし、α”-Fe16N2単結晶薄膜の作製と磁気特性の評価にも取り組んでいます。FeをMnで置換したMn4N薄膜のエピタキシャル成長にも成功し、東北大グループによる先行研究と同様に垂直磁気異方性の発現を確認できましたので(JAP 115 (2014) 17A935) 、こちらの材料のデバイス応用にも取り組んでいます。このような未開の分野に進みながら、新材料の面白い特長的な物性を明らかにしつつ、デバイス応用に向けた研究を進めています。

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Fe3Siでは、CaF2/Fe3Si/CaF2二重障壁型の共鳴トンネルダイオードを利用して、スピンフィルターの実現に向けて研究しました。CaF2/Fe3Siヘテロ構造においては、伝導帯バンド不連続が2eVと非常に大きいため、室温で動作可能なエネルギーフィルターおよびスピンフィルターとしての機能が期待されます。これまでの研究で、室温においてピークバレー比が1000に達する微分負性抵抗を実現しています(APEX 2 (2009) 063006)。Fe4Nについても、共鳴トンネル型のスピンフィルターを実現したいと考えています。スピンフィルターが実現すれば、金属からだけでなく半導体からでも一方のスピンを取り出せるようになると期待されます。

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